
長時間の立ち姿勢による疲労と着圧ストッキングの効果
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立ち仕事と下肢の生理学的影響
現代の職場環境において、長時間の立位姿勢が求められる職業は多く、食品加工業、ヘルスケア、接客業などでは1日の70~90%を立ち続けるケースが一般的です。このような状況では、下肢の血流停滞、筋肉疲労、静脈プーリングが発生しやすく、慢性的な疲労や痛みの要因となることが指摘されています(Kraemer et al., 2000)。この問題は単なる個人の不快感にとどまらず、労働生産性の低下や労災リスクの増加にも直結するため、企業の労働安全衛生担当者にとって重要な課題です。
着圧ストッキングの科学的効果
本研究では、12名の健康な女性を対象に、異なる着圧レベルのストッキングが立ち仕事による生理学的変化に及ぼす影響を検証しました。8時間の立位作業プロトコルを実施し、**血管の断面積変化、血圧、心拍数、筋肉疲労の指標(クレアチンキナーゼ濃度)**などを測定しました。




主要な研究結果
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下肢の浮腫(むくみ)の軽減
- 足首およびふくらはぎの浮腫が有意に減少(p < 0.05)。
- 静脈の血液プール(静脈内の血液の滞留)が抑制され、浮腫の発生が低減。
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血行動態の改善
- 着圧ストッキングを着用したグループでは、静脈径の拡張が抑制され、血流がスムーズに維持された。
- 立位作業後の**血圧低下(遅発性起立性低血圧)**が抑えられる傾向が確認された。
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筋肉疲労と損傷の抑制
- 立位作業後の血中クレアチンキナーゼ(CK)濃度上昇が有意に抑制され、筋肉組織のダメージが軽減された。
- 着圧ストッキングが、筋肉の静的負荷を軽減し、作業中の不快感を減少させる可能性を示唆。
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立位時の姿勢安定性向上
- 着圧ストッキングの着用により、立位時の身体動揺(重心移動)が抑制され、姿勢の安定性が向上。
- 姿勢の安定化により、筋肉の微細な調整活動が減少し、長時間の立位作業による疲労の軽減が期待される。
企業の労働安全衛生担当者への提言
職場での労働環境改善は、従業員の健康維持だけでなく、業務効率や企業のリスク管理にも大きな影響を与えます。以下の施策が有効です。
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着圧ストッキングの導入
- 足首部分の圧力が強く、ふくらはぎに向かって漸減する「段階的圧縮設計」が有効。
- 研究では、軽度~中程度の圧縮が最も快適性と効果を両立。
- 社員に適切な着用指導を行い、効果的な使用を推奨。
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作業環境の改善
- 立位作業用のクッションマット、フットレスト、適切な靴の選択を取り入れ、従業員の負担を軽減。
- 休憩時間の確保やストレッチ運動の推奨により、疲労軽減効果を最大化。
- 人間工学的に最適な作業姿勢のガイドラインを策定し、職場の安全対策を強化。
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労働災害の予防
- 立ち仕事による健康リスクを減少させることで、労災申請や医療費負担の抑制が可能。
- 圧縮ストッキングの活用を通じて、慢性的な足の痛みや疲労の予防を促進。
まとめ
着圧ストッキングの着用は、長時間の立ち仕事による下肢の負担を軽減し、筋肉疲労や静脈プーリングを抑制することが明らかになりました。企業においては、従業員の健康維持に資するだけでなく、労働災害の予防や生産性向上の観点から、着圧ストッキングの導入や作業環境の改善を積極的に推進することが求められます。今後も、科学的根拠に基づいた健康管理施策を導入し、持続可能な労働環境の構築を目指すことが重要です。